相続時精算課税の落とし穴

相続税相談の現場から

精算課税の落とし穴あれこれ

相続時精算課税(以下、精算課税)の落とし穴として考えられるものを挙げたところ、結構たくさんありました。そのいくつかをご説明します。

親より先に子が亡くなると損

親より先に子が亡くなった場合、精算課税で贈与を行っていなければ、子の代襲相続人である孫が親から直接財産を相続します。相続税の課税は1回です。でも、過去に精算課税で親から子へ贈与があった場合、その財産には
(1) 子から孫への相続時
(2) 親から子への相続時(子の代わりに孫が精算)
の2回、相続税の課税が行われるので、その分損になります。

相続時にない財産も相続税の対象に

精算課税で贈与を受けたお金を、全額マイホームの購入資金にあてたとします。
運悪く、マイホームが火事や地震で滅失したり、住宅ローンの返済が滞りマイホームを手放したりした結果、親の相続時には子の手元に何も残っていなくても、相続税を納める義務は消えません。

他の相続人に迷惑がかかるかもしれない

相続税の総額は「相続財産+精算課税による贈与財産」を、相続人が法定相続分で相続したとして計算します。ということは、暦年課税ではなく精算課税で贈与した方が、他の相続人の相続税の負担も重くなります。
さらに、相続税は「現金・一括払い」が原則です。精算課税で贈与を受けた人が相続税を払えないと、連帯納付義務により、他の相続人が贈与財産に係る相続税を納める義務を負います。

小規模宅地等の特例や物納の対象外に

小規模宅地等の特例や物納は、「相続」を原因として取得した財産にしか使えません。精算課税で贈与を受けた財産は、「相続」ではなく「贈与」で取得した財産なので、課されるのは相続税でも、これらの特例は使えません。

「民法上」と「税務上」で贈与財産をいくらと考えるかが異なる

民法の特別受益の計算上は「相続時」、相続税の計算上は「贈与時」の時価で考えます。そのため、例えば贈与時の時価が100万円で、相続時には時価が1億円になった株式なら、遺産分割を行う上では1億円、相続税の計算上は100万円だと考えて、取り分や相続税を計算します。
相続財産に「持ち戻す」という行為は同じでも、贈与財産をいくらと見るかが違うのです。

贈与の事実が当事者以外にも分かってしまう

正しい相続税を計算するには、贈与に関する情報が必要です。そのため、贈与の当事者以外でも、被相続人が精算課税で贈与した財産額のすべてにつき、税務署に開示の請求ができます(暦年課税なら相続開始前3年以内の贈与だけ)。そのため、贈与の事実が当事者以外にも明らかになってしまいます。

孫へ精算課税で贈与する場合にはデメリットあり

平成25年度の税制改正で、精算課税の受贈者に20歳以上の孫が加わりましたが、相続税の計算上、孫は祖父母の一親等の血族や配偶者ではないため、納める相続税は通常の2割増しになります。さらに孫は相続人ではないため、相続税の基礎控除額を計算する際の「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の人数にも加えてもらえません。

次回のコラムでは、精算課税を使ってもよい人についてご説明します。

-相続税相談の現場から

関連記事

高齢になった親の家 早めの売却も選択肢

自宅の階段の昇り降りがつらくなったと、実家の母がこぼしています。 親の自宅を売るタイミングによる税負担の違いがあれば教えて下さい。 親の自宅の売却、そのタイミングは? 「親の自宅をいつ売るべきか」とい …

「亡くなった人判定」から「もらった人判定」へ

※平成30年4月追記済 「自宅の土地の8割引特例」とは、亡くなった人の自宅の土地は、一定の面積(330m2)まで8割引で相続税を計算できるという特例です。 「自宅の土地の8割引特例」の条件 この特例が …

本の写真

改訂版『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』が発売されました

2024年6月3日に、改訂版『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』が発売されました。 2014年に初版を発行し、今年で10年の節目を迎えます。 多くのみなさまに手に取っていただいたおかげで、増刷と改 …

産経新聞 日曜朝刊連載「100歳時代の歩き方」取材協力及びコメント

産経新聞の日曜朝刊「100歳時代の歩き方(全5回)」にて 相続税について取材協力及びコメントしています。 2024年9月いっぱいの連載です。 第1回 相続税はお金持ちしか関係ないのでは いや、そうでも …

デジタル遺言制度の検討が始まっています

デジタル遺言制度の検討が始まっています 日本経済新聞 2023年5月6日 「デジタル遺言」制度創設へ ネットで作成/押印・署名不要 改ざん防止、相続円滑に 一般的な遺言の方式には「自筆証書遺言」と「公 …