株式会社・合同会社、どちらで作る?

相続税相談の現場から

個人事業の法人成りは、税務上の大きなテーマのひとつです。さらに「個人は増税・法人は減税」というここ数年のトレンドが、法人化の流れをより後押ししています。

個人に課される税金は、所得税・住民税の合計で最高税率50%(平成27年からは55%)であるのに対し、法人の実効税率は35.64%です。
また、復興特別所得税・復興特別法人税の課税も、個人は今後25年間、法人は3事業年度のみと大きく異なります。
重すぎる税負担は富裕層にとって頭の痛い問題です。

法人化のメリット

法人化の大きなメリットは、家族へ給与を支払うことで合法的に税負担の軽減が図れることです。また、経費として認められる範囲も、個人のような家事関連費の概念がない分、判断に迷いや疑義が生じません。法人では事業に関連しない費用は発生しないのが大前提だからです。

生命保険に関しても、個人では最大12万円までしか生命保険料控除が認められないのに対し、法人では保険の種類にもよりますが、保険料の全額、1/2、1/3、または1/4が損金として認められています。

さらに、平成25年度の税制改正により、法人の交際費の一部不算入制度が改正され、中小法人なら年800万円までは交際費が全額損金として認められます。

赤字を繰越せる年数の違い(個人の純損失は3年、法人の青色欠損金は9年)や決算期の決定・変更の自由度なども考慮すると、法人であることのデメリットは、赤字でも生じる住民税均等割の負担程度だと言えるでしょう。

その他、相続税対策としての活用や社会保険への加入の可否まで考えれば、「法人化ブーム」の到来も当然と言えば当然かもしれません。

法人の種類と特徴

現在、新たに会社法上の法人を作る際には、出資者が有限責任である「株式会社」か「合同会社(LLC)」を選択することが多いです。
「有限責任事業組合(LLP)」という制度もありますが、民法上の組合なので法人格がありません。もうけには、法人税ではなく構成員個人に所得税がかかります。法人化によるメリットはあまりありません。

株式会社と比較して、簡単に安く作れる上に自由度が高い法人が合同会社だと言えます。

合同会社の2大メリットは

1. 損益の分配が自由
株式会社は出資割合(株式の保有割合)に応じて利益の分配を行うが、合同会社はあらかじめ定款に定めることにより、出資者間なら出資割合と異なる分配ができる。会社の経営権である議決権に関しても、同じ考え方をとる。

2. 設立手続きが簡単
公証人による定款認証が不要なので、時間とお金が節約できる。定款認証費用の要否や登録免許税の違いにより、142,000円も合同会社の方が安く済む。

それ以外にも、「役員に任期の定めがない」「組織運営の自由度が高い」「決算公告が不要」などのメリットがあります。また、合同会社から株式会社への組織変更も可能です。
相続税対策を行うため、資産保有法人を設立し、出資した人と経営をする人を分けたい場合や、多額の資金調達を行いたい場合などには、株式会社の方がよいですが、信頼できる人同士、少人数で事業を行う場合には、合同会社も検討の余地ありです。ただし、肩書は「代表取締役社長」ではなく「代表社員」になる点にはご注意を。

-相続税相談の現場から

関連記事

事業承継を恐れず、好機を逃さず

事業承継対策の手法いろいろ 事業承継税制や小規模宅地等の特例以外にも、中小企業の事業承継対策に活用できる技はまだあります。 たとえば「金庫株」の制度を使えば、株式を発行した会社の分配可能額に余裕があれ …

どうする?名義株

会社の株主を「変えた」と言っていた祖父 相続税を試算するため お客様から預かった資料を確認しようと、法人税申告書を上から1枚めくったところ 別表2「同族会社等の判定に関する明細書(以降、別表2)」の株 …

謎だらけの過大役員退職給与(後編)

前回に引き続き、「過大役員退職給与」について考えます。 「いくらなら不相当に高額か」については謎だらけ 役員退職給与が「不相当に高額」か否かを類似法人と比較するため、審判所等では主に「功績倍率法」「1 …

遺言書の内容と異なる分け方はできる?

前回のコラムでは、遺産分割協議がまとまらない理由や、長引いた際の問題点をご説明しました。 今回も引き続き、財産の分け方についてお話していきます。 遺言の指示通りに分けなくても構わない 実際の相続の場面 …

令和5年分の路線価が公表されました。全体的に上昇傾向です

昨日、7月3日に、令和5年(2023年)分の路線価が公表されました。 令和5年中に亡くなった方の相続税や、贈与を受けた方の贈与税は この令和5年分の路線価図・評価倍率表を使って計算します。 路線価、全 …