老人ホームの入居金、本人以外が負担すると贈与税はかかる?
介護保険がスタートして約13年。
要支援や要介護の認定を受け、自宅で介護サービスを受ける方も増えました。
介護保険は現物給付が原則ですが、1割の自己負担部分や生活費などを
介護を受ける本人ではなく、配偶者や家族が負担することもあるでしょう。
民法上や税務上、
配偶者と直系血族、そして兄弟姉妹同士はお互いに扶養の義務があります
(民法第752条・877条、相続税法第1条の2)。
そのため、夫が妻の介護費用を払ったり
別居している子どもが親の介護費用を払ったりしても、そのお金に贈与税はかかりません。
相続税法第21条の3に
「扶養義務者相互間において生活費や教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち
通常必要と認められるもの」には贈与税を課さないと書かれているからです。
では、妻が要介護状態で、介護をする夫も高齢なので自宅介護が難しく
妻を老人ホームへ入居させる決断をしたとします。
専業主婦だった妻は、金融資産を持っていないため
入居金を夫や子が負担した場合、このお金にも贈与税は課されないのでしょうか。
贈与税の非課税かの判断基準
この場合、老人ホームの入居金が「通常必要と認められるもの」なら
前述の贈与税の非課税財産に該当し、贈与税はかかりません。
ただ、何が通常必要かは生活レベルによっても違いますし、個人差があります。
法令や通達には、どこまでが非課税なのかという肝心なことが書かれていないので
税務調査の場面で争いが生じているのです。
国税不服審判所の裁決事例では
(1) 平成22年11月19日の裁決(入居金945万円)→ 贈与税は非課税
(2) 平成23年6月10日の裁決(入居金1億3,370万円)→ 贈与税は非課税ではない
のように
・配偶者の年齢や老人ホームでの介護を必要とする度合い
・老人ホームの設備内容
などを基に、異なる判断がされていました。
ただ、老人ホームといっても
「介護付きか否か」「居室の広さ」「娯楽施設の有無」などは千差万別です。
(2)のような超高級有料老人ホームは別として
(1)と(2)の中間のような、入居金が4~5,000万円の老人ホームの入居金は
どう判断したらいいのでしょう。
また、要介護認定がどの段階なら、自宅介護が困難だと税務署が認めてくれるのかも
分からないのが悩ましいところです。
それに、親の老人ホームの入居金を子が負担するケースもありますよね。
裁決事例では「社会通念に従って通常必要な費用かどうかを判断する」と言っていますが
分岐点がはっきりしません。
自分の大切な親だからこそ、少しでも居心地のよい老人ホームに入ってほしい。
そんな親孝行な子どもの思いに、贈与税を課される可能性があるなんて…
相続税への影響も
贈与税だけではなく、相続税への影響も考えられます。
たとえば夫が妻の老人ホームの入居金を負担して3年以内に亡くなると
(令和5年度税制改正により順次7年以内に延長)
そのときに贈与税は課されなくても
相続税の生前贈与加算の対象になった結果、入居金に相続税が課される恐れがあります。
終の棲家を選ぶ際、
相続税の小規模宅地等の特例や、所得税の居住用財産の3000万円控除の適用が受けられるかを
気にする人は多いですが
老人ホームの入居金の負担についても、相続税や贈与税の課税に注意しておきましょう。
不安な方はどうぞ遠慮なくご相談ください。