「もめると分かっている」相続が多すぎる!
「相続財産は自宅とわずかばかりの金融資産。生命保険への加入もなし。相続人である子どもは複数いて、そのうちひとりが被相続人と同居中」――。こんな相続税の申告事案を、昨年も何件か受任しました。
自宅を子どもが相続し、小規模宅地等の特例が使えれば、相続税の納税資金の心配は不要であり、一見、税理士が対処しやすそうな事案にも思えます。しかし問題なのは「遺産分割」についてです。
「現物分割」でこの自宅を分けるのは不可能です。子ども同士で自宅を共有する形も避けるべきであり、相続人がその家に住み続けるなら、売却による「換価分割」も行えず、「代償分割」しか選択肢はありません。
遺言書がなければ法定相続分、遺言書があれば遺留分をもらう権利が、相続人の全員にはあるのです。相続対策ブームがこれほど過熱しているのにもかかわらず、どうしてこんなに「もめると分かっている相続」が多いのかと、亡くなった方に対し憤ることもしばしばです。
なぜ遺産分割協議がまとまらないのか?
法定相続分や遺留分の問題だけではありません。遺産分割協議がまとまらず、長引く理由はまだあります。
- 寄与分(被相続人に対する介護等)・・・取り分へのプラス
- 特別受益(被相続人からの生前贈与)・・・取り分からのマイナス
- “何が遺産か?”に関する争い(家族名義の預貯金、被相続人の預貯金の生前・死後の無断引出、使途不明金)・・・遺産の範囲が広がれば、取り分が増える可能性あり
- 債務・・・債権者の同意がなければ債務の単独相続は不可。相続分で負担
- 遺産から生じる収益(配当金や賃料収入)・・・分割協議成立前は原則、相続分で分配
- 葬式費用や遺産管理費用(固定資産税や修繕費)・・・分割協議で話し合い、清算
- 祭祀の主宰者(位牌、仏壇、お墓、遺骨)・・・慣習や家庭裁判所の審判で決定
- 遺産の評価時点(土地や上場株等)・・・実務上は相続時。ただし、たとえば株価が相続時は1株8,000円、分割協議成立時は1株40,000円など、大きな変動がある場合には、遺産分割成立時が一般的
全部が無理なら一部だけでも分けること
相続人の人数にもよりますが、遺産が5,000万円程度でも、相続税の申告納税の義務は生じます。悩みの種は「分けられるか」だけではなく「払えるか」にまで及ぶのです。
相続から10ヵ月以内に遺産分割協議が整わなくても、未分割で申告することはできますが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用が受けらないというデメリットが生じてしまいます。
ただし、段階的に遺産分割を行って、配偶者が相続する財産が確定すれば、その部分については配偶者の税額軽減の適用を受けられます。
また、小規模宅地等の特例の対象となる財産の取得者が決まったならば、その土地は8割引や5割引で評価することが可能です。
相続税の増税後は、「全員が合意できた部分だけ」「配偶者の相続する財産だけ」「小規模宅地等の特例の対象となる土地だけ」「相続税の納税に必要な預貯金だけ」などのように、財産の一部分割を行う機会が増えるでしょう。
次回のコラムでは、遺言書と異なる遺産分割協議を行うケースや相続時精算課税の数少ない活用法について、見て行きたいと思います。