生前贈与が相続争いの火種を作る原因に
相続税の軽減対策ではなく、相続対策、つまりもめない相続を目指すという観点からは、生前贈与を行わない方がいいケースが多くあります。
生前贈与を考慮して相続時の取り分を計算するのが、民法の「特別受益」の考え方です(特別受益:相続人間の公平のため、亡くなった人から生前に財産をもらった相続人がいるとき、遺産分割の際にはこれを相続財産に合算し、トータルで相続運を計算する)。
民法には「特別受益を考慮しなさい」という記載はありますが、どう考慮したらいいのかという金額や割合の基準はありません。
このことが相続争いの火種を作る原因にもなるのです。
孫への教育資金の非課税贈与も同様です。
祖父母の死亡や認知症の発症などにより、将来、贈与ができなくなるリスクに備えられるというメリットはありますが、どんなに高額な孫への教育資金でも、必要な都度贈与するならこの制度を使わなくても贈与税は非課税です。あおられすぎは禁物です。
母の長生き対策をまず第一に
国に納める相続税は少ないに越したことはありません。だからといって母の老後の生活が不安定になって、その上相続争いまで生じては本末転倒でしょう。
そこで逆の発想として、「母の長生き対策を第一に考えた相続税対策」について考えてみます。
子のマイホーム取得について母が援助するときに、子に資金の贈与は行わず、母が自分の名義で購入し、子はその家に無償で住みます。子が母からその家を相続する際には、相続税評価額は取得価額よりかなり低くなっているでしょう。母がその家に子と住むか、又は一緒に住まなくても母と子が生計一だったなら、小規模宅地等の特例が使え、子が負担する相続税をさらに減らすことが可能です。
マイホームの購入資金5,000万円を相続時精算課税で贈与すれば、母の相続時に5,000万円の全額が相続税の対象になりますが、不動産で相続するなら3,000~4,000万円程度の評価額になり、その敷地が8割引なら相続税の対象になるのはわずか600~800万円で済みます。
暦年課税での贈与なら、住宅取得等資金贈与の特例(令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間は、省エネ住宅なら1000万円、その他住宅なら500万円の非課税枠あり)も使えますが、母の長生き対策が第一なら、母の名義で取得した方がよいでしょう。
息子が母より先に亡くなれば、息子の財産は息子の妻や子が相続し、折り合いが悪い場合、母が住めなくなるかもしれません。息子の自宅が母の名義なら、場合によっては母が売却し、老後資金や老人ホームの入居資金に充当することも可能です。
このように子の立場だけではなく母の立場でも考えるという視点があれば、相続対策・相続税対策の幅はより広がると思います。