贈与 自分に合う制度選んで

相続税相談の現場から

娘が孫の教育費に頭を悩ませています。
まとまった金額を援助したいと思いますが、贈与税の非課税枠を超えそうで心配です。

生活費・教育費の贈与は非課税

子の教育費や生活費は、可能な範囲で援助したいと思うのが親心です。

近年は、高齢者の金融資産を若い世代に移し、消費を活発化させたいという国の政策もあり
様々な贈与税の特例制度が作られています。

中でも金融機関などで手続きをすれば、教育資金は1500万円まで
結婚・子育て資金は1000万円までの一括贈与が非課税になる制度が有名です。

しかし、これらの制度を使わなくても
扶養義務者相互間で生活費や教育費として通常必要なものを負担した場合、税金はかかりません。

老後資金の不安がない範囲で、子や孫の喜ぶ顔を贈与のたびに見られます。

扶養義務者から必要な都度・必要な金額をもらうこと

扶養義務者とは、配偶者、直系血族(両親や祖父母、子や孫など)、兄弟姉妹の間柄のことです。

優先順位に定めはなく、例えば、祖父が同居している子や孫3世代全員の生活費を負担したり
孫の留学費用や医大・音大の学費などの教育費を払ったりした場合、
援助を受ける子や孫の側に収入があっても
社会通念上通常必要な生活費や教育費の範囲内なら課税の心配はありません。

そもそも「非課税」なので、贈与税の非課税枠である年110万円を超えるかどうかの判定も不要です。

ただし、「必要な都度もらい」「直接その費用に充てた」場合に限られます。
「面倒だから」とまとめて振り込んで使い残すことのないよう
その都度支払先に直接払った方が安心です。

孫が幼く、高齢の祖父母がいつまで元気で援助し続けられるか分からないといった場合には、
一括贈与の制度を活用してもよいでしょう。

マイホーム購入資金の贈与には非課税特例あり

マイホームの購入資金はこの非課税扱いになる生活費には含まれませんが
「住宅取得等資金の贈与税の非課税特例」を使えば、限度額まで贈与税がかかりません。

限度額は、家屋の購入等の契約時期によって変わります。
国税庁HP「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」等のあらまし(令和4年5月)(令和4年11月改訂)

ただし、返済中の住宅ローンを肩代わりするための資金の贈与には、この特例を使えません。

また、子などがマイホームを買って住むと、亡くなった方の自宅の敷地を8割引きで相続できる
相続税の「小規模宅地等の特例」の適用対象者から外れます。

マイホーム購入資金を贈与して財産が減ることによる相続税の節税と
子が持ち家を持ち小規模宅地等の特例が使えなくなることによる相続税のアップとの
「損得」の検討が、状況に応じて必要になります。

富裕層の方や自宅の相続でもめそうな方は

富裕層の方は年110万円の非課税枠にこだわらず
想定される「相続税」の速算表上の税率より低い「贈与税」の実行税率での贈与や
価値の上がりそうな財産や収益を生む財産の贈与も選択肢の一つです。

賃貸物件を贈与すれば賃料収入も一緒に移転でき、子などの財産形成に役立ちます。

誰が自宅を相続するかで将来もめそうな場合は
婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産などの贈与が上限2000万円まで非課税となる
「贈与税の配偶者控除」を使い、配偶者に自宅を生前贈与してもよいと思います。

わが家に合う形の生前贈与を、家族に相談しながら、できるだけ公平に実行していきましょう。

-相続税相談の現場から

関連記事

「相続の開始があったことを知った日」とは

相続税の申告期限 相続税の申告期限は「死後10か月以内」といわれることが多いですが 正しくは相続税法に 「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」と定められています。 相続税法 第27条 …

相続対策には生命保険より不動産?(前編)

不動産投資で相続対策? 先日、とある新聞記者の方が「『大増税時代の今こそ、ワンルームマンションへの投資で相続対策を!』というセミナーに足を運んだら大盛況で驚いた」とおっしゃっていました。 「現金で贈与 …

税務署が贈与を見つけるとき

毎年12月ごろ、国税庁のホームページに相続税・贈与税の調査事績が公表されます。 税務調査の件数は、近年コロナの影響で激減していましたが 少しずつ以前の状況に戻りつつあります。 令和3事務年度における相 …

謎だらけの過大役員退職給与(後編)

前回に引き続き、「過大役員退職給与」について考えます。 「いくらなら不相当に高額か」については謎だらけ 役員退職給与が「不相当に高額」か否かを類似法人と比較するため、審判所等では主に「功績倍率法」「1 …

謎だらけの過大役員退職給与(前編)

今回は、法令にも通達にも具体的な記載がなく、最も悩ましい問題だと言われている「過大役員退職給与」についてです。 税理士にも役員退職給与の適正額は分からない 税理士業務の傍ら、生命保険の代理店となり、法 …

相続税相談の現場から
ブログ