市場下落時の相続税の注意点

相続税相談の現場から

相続税収・贈与税収が過去最高に

財務省は先月、令和5年度の相続税・贈与税の税収が
過去最高の3兆5,663億円を記録したことを公表しました。

相続税・贈与税の税収は、
バブル期だった平成5年度以後、30年近く低迷していましたが

コロナ後の令和3年度から急増しはじめ、今回、過去最高を更新しました。

相続財産の構成比率

国税庁の最新データによると、相続税申告における財産の構成比は

現金預貯金と土地が、全体の約3分の1ずつ、
有価証券(株式や債券、投資信託など)が約6分の1を占めています。

出所

先月までは、相続財産の過半を占める地価や株価が上がり続けており

令和6年度の相続税収も、堅調に推移することが見込まれていました。

市場下落時、相続税で気をつけたいこと

しかし、この1か月間で市場は激変、
日経平均株価は1万円以上の下落、円ドルの為替相場も円高が進み、その後も乱高下しています。

市場下落時に、相続税で忘れてはならないことは

遺産は原則「相続開始日(死亡日)」の時価や為替レートで課税され
死後の時価の変動は考慮されない点です。

国税庁/上場株式の評価
国税庁/外貨(現金)の邦貨換算

仮に、亡くなった日が2024年7月11日(日経平均が最高値を更新した日)なら
相続税はその日の時価をベースに課税され、
来年2025年5月11日までに納税しなければなりません。

上場株式は、死亡日「以前」3か月間の株価を考慮し、最も低いものを選べますが
8月以後の時価は一切考慮できません。

アメリカやイギリスのように
死亡日「以後」に株価が下落した場合の軽減措置は、わが国にはないのです。

ただし、キャッシュではなく、現物財産で納税する方法である「物納」は
死亡日の時価で財産を国に収納してもらえ、納税できる制度です。

近年、物納する方は非常に少なかったのですが
市場の下落に伴い、今後は件数が多少増えるかもしれません。

また、市場下落時は
NISAや相続時精算課税制度による贈与にもデメリットが生じます。

まとまった資産をお持ちの方は、今後の市場の動向に注意が必要です。

-相続税相談の現場から

関連記事

贈与の前に母の長生き対策を

生前贈与が相続争いの火種を作る原因に 相続税の軽減対策ではなく、相続対策、つまりもめない相続を目指すという観点からは、生前贈与を行わない方がいいケースが多くあります。 生前贈与を考慮して相続時の取り分 …

もらう人が決めるから、もめる「遺産分割協議」

「もめると分かっている」相続が多すぎる! 「相続財産は自宅とわずかばかりの金融資産。生命保険への加入もなし。相続人である子どもは複数いて、そのうちひとりが被相続人と同居中」――。こんな相続税の申告事案 …

親きょうだいの扶養義務

就職や結婚を機に家を出て、自分の家庭を持った後も 実家の親きょうだいが経済的に困窮している場合は、支援する必要があります。 ただ、誰がどの程度支援すべきかは、法の定めや各人の状況により異なります。 扶 …

相続対策には生命保険より不動産?(後編)

不動産を買うなら相続税のことも頭に入れておく 税メリットや安定収入の確保だけを目的として行えるほど、不動産投資は甘くありません。でも、不動産を買うなら相続税のことも考慮して買った方がよいケースがありま …

どうする?名義株

会社の株主を「変えた」と言っていた祖父 相続税を試算するため お客様から預かった資料を確認しようと、法人税申告書を上から1枚めくったところ 別表2「同族会社等の判定に関する明細書(以降、別表2)」の株 …

相続税相談の現場から
ブログ