相続対策には生命保険より不動産?(前編)

相続税相談の現場から

不動産投資で相続対策?

先日、とある新聞記者の方が「『大増税時代の今こそ、ワンルームマンションへの投資で相続対策を!』というセミナーに足を運んだら大盛況で驚いた」とおっしゃっていました。

「現金で贈与するよりワンルームマンションで贈与した方が、贈与税がお得です」「安定した家賃収入が見込め、ご自身の公的年金やお子様の生活資金の足しになります」と言われたら、相続について考えている人が不動産投資=選択肢のひとつと感じるのも、あながち不思議ではありません。果たしてその言葉を額面通り受け取って、不動産投資を行ってもよいのでしょうか。

なぜ不動産が相続対策になるのか

キャッシュと不動産とでは、相続税上の評価額にかなりの差があります。2億円のキャッシュで不動産を購入し、それを人に貸せば、評価額は約1億500万円に下がります。

2億円を子ども2人で相続すれば、各自の取り分1億円から相続税1,670万円を払い、8,330万円が手元に残ります。分けるのも納税するのも簡単です。一方、相続する財産が1億500万円の不動産なら、相続税は各自430万円で済みます。しかし、不動産を持分2分の1ずつで共有し、納税資金も各自で準備しなければなりません。

本来は、相続への準備は(1)遺産分割、(2)納税資金、そして(3)相続税の軽減の順で行うのが鉄則ですが、一般的には「相続対策=(3)相続税の軽減」だと誤解されている点が問題です。見た目の相続税が減ったとしても、分けられない・払えない、では本末転倒でしょう。

仮に、平等に分けられるよう「相続税評価額」がほぼ同じ中古マンションを複数買ったとしても、エリアや賃料、入居者の有無、物件の築年数や管理状態などから、いくらで売れるか、いくらの収益を生むかといった「時価」には必ず差が生じます。財産分けはあくまで「時価」で考えるので、子どもが持ち続けるにしても売るにしても、どの物件を相続するかでもめる可能性は大きいのです。

不動産投資が抱えるリスク

不動産投資には必ずリスクがつきものなので、あくまで「事業」や「資産運用」の一環として、自分がリスクを負える範囲で行わなければなりません。
不動産事業は企業経営と比較して個人の才能や資質が問われない分、物件価値を担保として身の丈を超えた投資をしがちなため、失敗に気づいたときの手じまいが極めて難しいからです。

不動産の投資利回りは、年間の賃料収入から諸経費を差し引いたものを物件価格で割って計算します。都心より地方、住居より商業物件の方が利回りは高くなりますが、当然その分リスクも高くなります。

リスクとリターンのバランスだけではなく、自分の財産全体における他の財産とのバランスも重要です。為替リスクを避けるため円以外の外貨建資産にも分散させる、金利上昇による債券の下落リスクに備え株式への投資を増やす選択肢もあります。現物資産にシフトしてインフレリスクに備えるなら、金(きん)もあるでしょう。
税メリットや安定収入の確保だけを目的として行えるほど、不動産投資は甘くありません。

次回のコラムでは、相続税のことを考慮した不動産の買い方についてご説明します。

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